8/24から8/26まで、舞浜アンフィシアターで行われたアルターボーイズ の公演に行ってきました。
曲がすごく良くて、メンバーみんな歌が上手い!マーク役のビョンジュンさんと、エイブラハム役のHIGHLIGHTドンウンくんすごく良かったですね。我らがイェソン兄さんは最後の美味しいとこ歌わせてもらってました。I believe〜ってところ最高に良かった。あとは上のハモリパートも良かったなー。兄さんは上でシャウトするのが本当に合いますね!
で、まあ、特にキャストには不満がないのですが、演出がですね…、これちょっとどうなのよと。
このあと思い切りネタバレしますので、読みたくない人はここでお戻りください。
一度見終わった時に、なんかアメリカのブロードウェイでヒットとかいう割には、ストーリーがちょっとしょぼすぎない?と。ただメンバーがALTAR BOYSという設定でファンミーティングしてるだけのように感じてしまいまして。しかも、ストーリーがない割に、なんか所々で「あれ?これギャグだよね…?お客さんには伝わってないっぽいけど…」ってところがあるので見ていてなんだか居心地が悪かったです。
そこで、ネットで元々の舞台の評判について調べたんですが、このミュージカル、アメリカ社会風刺をたくさん詰め込んでるコメディミュージカルなんですね。でも、今回の公演ではその社会風刺要素がほとんど伝わってこなかったんですよ。なんなら公演中のギャグもたぶんあんまり伝わってなかったのでは?
このミュージカル、冒頭からキリスト教ネタ満載で、登場人物は、
・マシュー(マタイの英語読み)
・ルーク(ルカの英語読み)
・マーク(マルコの英語読み)
という聖書の福音書を書いたキリストの弟子たちから名前を取っています。ユダヤ人のエイブラハムは旧約聖書に出てくるアブラハムからですね。
五人が覚えているバンド誕生秘話がちょっとずつ違ってるネタ。福音書は同じキリストの言行録のはずなのに、どの弟子が書いたかで少しずつ違うってところから来てると思うのです。ただ、キリスト教信者が1%未満と言われている日本のお客さんにどこまで伝わってるのかなあ…と。
エイブラハムがカトリックバンドにいるおかしさとかね。ユダヤ教ではキリストが出てくる新約聖書を聖典としてないので、メンバーが「ユダヤ人はキリストを信じないだろ?」っていうのも当然なんですよね。(そしてそれがラストのカトリックバンドにユダヤ人一人が残るおかしさにつながる)
ちなみにユダヤ人差別で「キリストを信じてない」ってことが槍玉に上がることも多く、ナチスなんかはそれを積極的に利用してユダヤ人差別を進めたりしたので、かなりセンシティブな問題でもあるわけですが。
曲もキリスト教ネタ満載で、例えばThe Callingって曲。そもそもCallingって言葉が神様に呼ばれること、キリスト教徒としての使命を託されるという意味なんです。それを「電話する」という意味に捉えて、神様が電話してきたよ~電波が悪くて聞こえないです~って歌うギャグなんですよ。
Church rulezという曲では、教会のルールを歌うんですが、その内容が「かごが回ってくるからそこにコインを入れてね」っていう一度でもミサ参加したことある人なら「いや知っとるわい!」って内容だし。みんなが知っている当たり前のことをいちいち細かく説明するギャグなんだろうけど、日本だと伝わりづらいですよね。
あと、あとで英語版の歌詞を調べてびっくりしたのがSomething about you。マシューが歌う甘くて切ない恋の歌かと思ってたんですが、「僕はカトリックだから君とは結婚できない」って歌なんですね。そりゃそうか、カトリックの神父は結婚を禁じられてますから。今回の舞台からは全くそんなこと読み取れませんでした。
まあそこはいいとしましょう。キリスト教ジョークは日本人にはわかりづらいですし。仕方がない。でも、アメリカ的社会風刺がわかりにくくなった結果、ミュージカル内のジョークが機能しなくなってたり、メンバーのキャラクターが薄くなっているのはいかがなものかと。
そもそもこの五人は、原作舞台では社会のマイノリティなんですよ。そもそもカトリックがアメリカではマイノリティだし(アメリカはプロテスタントの国)、ルークはドラッグ中毒、マークはゲイ、フアンはメキシコ人、エイブラハムはユダヤ人なわけで。
でもそれが全然この舞台で伝わってこない!
ルークがドラッグ中毒はなんとなく察することが可能ですけど、マークがゲイってわかりました…?わたしはわかんなかったです。よく見るとパンフにちょっと書いてあるんですけど、舞台からはわからない。原作舞台や昔日本でやった公演では、マークは明らかにマシューのことが好きだとわかるらしいんですが。
マークのソロ曲って、明らかにゲイに見えるマークが、「今から隠してた秘密を告白するよ」って言うことで、お客側にゲイってカムアウトするのかと思わせといて、実は「僕はカトリック」って歌いだすと言うギャグらしいのですが、多分それ全然伝わってなかったです。だってこの舞台でのマーク、別にゲイに見えないですもん。
明らかに歌詞がアホっぽい(C-A-T-H-O-L-I-C スペルも素敵みたいな歌詞)のでなんとなく笑わせようとしてるんだな…?ってことは伝わるんですけど。
アメリカだとピンクの服を着て小奇麗にしている男=ゲイっていう偏見があるので、マークを小奇麗な青年にして、マシューにベタベタさせておけばゲイということにできるのかもしれないですが。K-popアイドルにそういうことさせてもゲイに見えるかっていう……見えないよなあ……。そもそもゲイがカムアウトするのがすごく大変、って問題、日本でどこまで認識されているのか?という。
フアンがヒスパニック系だというのも、まあわかるんですけど、演技だけでヒスパニックらしいなってわかります?すぐ女の人を口説こうとするのがそれなのかなあと思うんですが。なんか、ただ陽気で唐突にスペイン語をいう人みたいになってましたね。
ルークのドラッグ中毒、今回の舞台だと台詞からなんとなくうかがい知れる程度で、ただテンション高いおちゃらけたアイドルにしか見えなかったです。あれ、ドラッグ中毒者の変わり者って演技だったのかもしれないけど、伝わらなかったかなあ…。
というわけで敬虔なカトリックバンドのALTARBOYSは、ゲイ・ヒスパニック・ドラッグ中毒・ユダヤ人と個性あふれるメンバーなんですけど、今回の舞台ではほぼその個性は伝わってこなかったし、その個性ゆえのギャグやあるあるネタも無効になってしまってたと思います。
演者のアイドルスキルが高いのが悪い方向に行っていて、普通にカッコよくて可愛いアイドルのステージになっちゃってるんですよ。演じる役の個性が、役者のアイドルの個性に負けてしまってて、役になりきらなくても成立してしまっているというか。
途中で挟まれる、告白の時間というコーナー、お客さんの「悩みの告白」を聞くというものなんですが、回答がAltar boysの役柄としての回答ではなく、普通に素の回答でしたよね。あれが今回の舞台を一番象徴しているシーンかなあと思います。
まあそもそも根本的なことを言ってしまえば、アメリカの宗教・社会問題ネタを、日本の韓国語ミュージカルで表現するのがしんどいのかもしれません。まだ日本のお客向けにやる日本語ミュージカルや韓国でやる韓国語ミュージカルなら、メンバーになまらせて外国籍を表現したり(日本版では、ヒスパニックであるフアンは関西弁で演じられてたみたいですね)、アドリブや間をうまく使って笑いを取れたんでしょうけど。字幕を使ってるのでそれもできない。兄さんが韓国語でガンガンアドリブ入れてましたけど、すまん…わからなかったわ…。
ユダヤ人ネタとかもわかりづらいですよね。
自分が昔見た海外ミュージカル、スパマロット(韓国版ではイェソンさん出てましたね)でも、ユダヤ人ネタが有りまして。ユダヤ人は差別されていたがゆえに正規の職に付きづらく、才能があれば認められる芸能の世界に進む人が多かったらしいんです。特にミュージカルの脚本家はユダヤ人が多いということから、「ユダヤ人じゃないとブロードウェイじゃ成功なんかできないよ!」みたいな風刺ギャグの歌があるんですね。
でも、それをそのまま日本で演ってもウケない!ということで、日本語版ではどうなってるかっていうと、「日本の芸能界で活躍したければ、韓国人にならないと!」って歌に変わってるんですよ。
これはうまく置き換えたなあと思うのですが、じゃあ今回のミュージカルをそれでやれるか?というと無理ですよね。
日本のお客さん向けにやる、韓国語ミュージカルで、アメリカの風刺ネタをやる。この時点で何重にもねじれが発生してしまっていて、わけがわからなくなっているんですよ。
演出側も多分そこはわかっていて、社会風刺をすっぱり切ってるんじゃないかと思うんですよね。
社会風刺を諦めて、アイドルのステージ風に仕立て上げた気持ちはわかるのですが、そのおかげで一部のギャグがわけわからないことになってるし、ストーリーはスカスカだし、キャラクターは最後までよく見えないままだったし。イェソンさん、まんまイェソンさんでした。マシューのキャラクター、最後までよくわからなかった。
歌はいいし、Altar boysという設定でやってるコンサート、くらいに考えれば楽しめるのかもしれないです。ただ、わたしとしてはちゃんとしたミュージカルを見たかったかなあ。メンバーの歌唱力は良かったから、他の題材で演ってほしかったです。